肥料の効果は、成分の種類と量で決まります。ところが肥料の袋に書かれている数字は成分の割合で、庭や花壇にまく量そのものではありません。まず押さえたいのは、植物が必要とする三つの要素の役割です。窒素は植物の体をつくる葉を、りん酸は花や実を、加里は根を育てます。この違いを知らないまま元肥と追肥を同じように扱うと、葉ばかり茂って花がつかない、実はつくけど株が疲れるといった偏りが起こります。このページでは、三要素の役割から始めて、元肥と追肥の違い、量の配分、そして施肥基準から製品の量を計算する手順までを順につなぎます。さらに、都道府県の施肥基準と種の会社の「握り」の目安という実数の出典を置き、「半量を元肥」が成分ごとにどれだけずれるか、目安は基準の何割にあたるかまで検証します。
肥料の三要素とは、植物がとくに多く必要とする窒素・りん酸・加里の3つのことです。日本肥料アンモニア協会が家庭菜園向けに公表している家庭菜園での化成肥料の使い方では、窒素は植物の体を作るのに必要な葉をつくり、りん酸は花を咲かせたり実を作るのに必要で、加里は根の発達を良くするのに重要な働きをしていると説明されています。化成肥料はこの3要素を1粒の中にバランスよく含んでいるため、使いやすく安価な肥料とされています。3つの役割はそれぞれ別の働きなので、どれが欠けても、どれが多すぎても、植物の姿は違う方向に崩れます。
| 要素 | はたらき | おもな呼び名 |
|---|---|---|
| 窒素(N) | 葉や茎を育て、植物の体をつくる | 葉肥(はごえ) |
| りん酸(P) | 花を咲かせ、実をつける | 花肥・実肥(はなごえ・みごえ) |
| 加里(K) | 根の発達を良くする | 根肥(ねごえ) |
肥料の量は、この3つのうち窒素を基準に決めるのが原則です。窒素は作物育成の鍵を握る要素とされ、長い間の試験研究と農家での経験から、一定水準の収量や品質を得るための施肥量が作物ごと・地域ごとにほぼ決まっています。これが施肥基準です。ある施肥基準に合わせて肥料の量を決めると、りん酸や加里の基準値とは多少ずれることがありますが、普通はあまり問題にならないとされています。もう一つ知っておきたいのが、化成肥料の保証成分は3要素が同じ割合とは限らないという点です。8-8-8のように3つが同じ%の製品もあれば、14-10-18のように窒素と加里が多くりん酸が少ない製品もあります。目標とする成分量をすべて同時に満たすことはできないので、足りない成分は単肥で補うか、目標に近い成分比の製品を選ぶことになります。成分ごとの必要量と不足分は肥料成分の必要量計算機で確認できます。
肥料をやる時期は、大きく2つに分かれます。種をまいたり苗を植え付けたりするときにやるのが元肥、作物の生育を見ながら途中でやるのが追肥です。役割が違うので、使う肥料の種類も置く位置も変わります。元肥は、根が新しい土に張り出すまでの間、養分が少しずつ効き続ける必要があります。そのためゆっくり効く有機質肥料や緩効性の肥料が向きます。一方の追肥は、生育の途中で足りなくなった分を補うのが目的なので、水に溶けてすぐ効く化成肥料や液体肥料を使います。即効性の化成肥料は成分のほとんどが水に溶けるため作物にすぐ利用され、有機質肥料は成分の全量を作物が利用できるわけではなく肥効もゆっくり現れます。この違いが、施肥量の計算のしやすさにもそのまま表れます。
| 元肥 | 追肥 | |
|---|---|---|
| 時期 | 種まき・植え付けの前 | 生育の途中 |
| 目的 | 初期の生育を支える養分を土に用意する | 生育で足りなくなった養分を補う |
| 向く肥料 | 有機質肥料・緩効性の肥料(ゆっくり効く) | 即効性の化成肥料・液体肥料(すぐ効く) |
| 与える位置 | 株の直下15〜30cmに施肥溝を掘って入れる(果菜類の例) | 根元から20〜30cm離れたところ |
| 注意 | 植えた苗の根が直接肥料に触れると根が傷む | 一度に多く与えると濃度障害を起こす |
元肥と追肥にどれだけずつ分けるかは、作物が養分を吸収する型で決まります。生育のはじめに肥料が多い方がよい作物、少ない方がよい作物、常に肥料があった方がよい作物に分かれているためです。果菜類のトマト・ナス・キュウリは収穫期間が長く、肥効を長く維持する必要があるため追肥重点型になります。肥料のやり方は、元肥を少なくして追肥で生育を維持していく形で、施肥配分は全量の半分を元肥とし、残りを3回に分けて追肥とします。この配分は果菜類の項に書かれているもので、すべての作物に共通する比率ではありません。芝生や庭木、花壇では必要な量も回数も違うので、それぞれの場面の値を確認してください。
この「全量の半分を元肥」は業界団体の家庭菜園向け解説に書かれた一般則で、実際の施肥基準が成分ごとにどれだけ違うかは含みません。そこで都道府県の基準の実数を引いて確かめます。福島県の作物別施肥基準(野菜)のトマト・ハウス夏秋栽培(2月播種)は、全域の砂壌土・埴壌土を対象に、基肥を定植2週間前、追肥を第3花房開花時以降として成分量を kg/10a で掲げています。目標収量は10,000kg/10a、定植本数は2,000〜12,000本/10aです。
| 成分 | 基肥 | 追肥 | 合計 | 基肥÷合計 |
|---|---|---|---|---|
| チッソ | 15〜20 | 15〜17 | 30〜37 | 50.0〜54.1% |
| リン酸 | 20〜25 | 11〜13 | 31〜38 | 64.5〜65.8% |
| カリ | 15〜20 | 15〜17 | 30〜37 | 50.0〜54.1% |
基肥の割合は、チッソとカリは 15÷30=50.0% から 20÷37=54.1%、リン酸は 20÷31=64.5% から 25÷38=65.8% です。「半分を元肥」はチッソとカリについては成り立ちますが、リン酸は元肥に3分の2前後を入れる設計になっています。同じ資料のミニトマト(ハウス夏秋栽培)は基肥がチッソ12、リン酸20、カリ16の単一値で、合計はチッソ35〜40、リン酸30〜32、カリ35〜40です。ここでの基肥の割合はチッソ 12÷40=30.0% から 12÷35=34.3%、リン酸 20÷32=62.5% から 20÷30=66.7%、カリ 16÷40=40.0% から 16÷35=45.7% となり、トマトよりも元肥をさらに控えめにしています。つまり「半分」はリン酸には当てはまらず、チッソも作物と栽培様式で3割台から5.4割まで動くというのが公的基準の実数です。幅つきの数値どうしを割り合うので、取り得る値の範囲は同方向の対より広がります。トマトのチッソなら下限同士と上限同士の対が 15÷30=50.0% と 20÷37=54.1%、端を突き合わせた包絡が 15÷37=40.5% から 20÷30=66.7% です。この比率をなぜこう分けるかという理由は資料に書かれていないため、ここでは数値の事実だけを置きます。
基準どおりにまくても、その全量が作物に吸収されるわけではありません。タキイ種苗の家庭菜園向けの解説は、肥料成分の利用率の一般的な目安をチッソ=40〜60%、リン酸=10〜20%、カリ=60〜80%としています。最も低いのがリン酸で、施した量の1〜2割しか作物に利用されないという見立てです。利用率は土壌の種類でも変わり、堆肥などの有機物と一緒に施して根に直接触れるのを減らす、根に吸収されやすい位置に施すといった工夫で高めるものとされています。公的基準側にも「リン酸資材は連作ほ場で過剰施用に注意する」という注意書きがあり、利用率の低さと過剰蓄積は同じ話の裏表です。
元肥をいつ入れるかも資料によって幅があります。タキイ種苗は有機質肥料を元肥にする場合、種まきや植え付けの1週間前に施すとしています。一方、福島県のトマトとミニトマトの基準は基肥の施用時期を定植2週間前としており、基肥は緩効性肥料または有機質肥料を主体にして深層施用あるいは溝施用する、初期生育時の肥効は控えめにする、と続きます。1週間前と2週間前のどちらかが誤りではなく、緩効性の肥料が効き出すまでの長さの読み方の差です。庭の作業計画では土への混ぜ込みの時間も要るため、2週間前を安全側に取れます。
| 作物 | 1回目の追肥 | 2回目以降 | 追肥のサイン |
|---|---|---|---|
| トマト | 最初の花の実がピンポン玉大になったとき | 1か月ごとに2回目・3回目 | 茎葉ばかり茂って花や実がつかないときは窒素のやりすぎ |
| ナス | 最初の実がなくなりはじめたころ | 3〜4週間ごと | 雌しべが雄しべより短い短花柱花が出たら追肥の目安 |
| キュウリ | 定植から1か月後 | 2回目が果実の収穫はじめ、3回目がその1か月後 | 巻きひげの勢いがなくなったら追肥の目安 |
実際にまく量は、成分量から逆算します。たとえば窒素の施肥基準値が30kg/10aなら、10a(1,000㎡)あたり30kg=30,000gなので、1㎡あたりにすると30,000g÷1,000㎡=30gです。これを8-8-8の化成肥料でまかなうには、窒素の含有率8%で割って30g÷0.08=375gが必要になります。普通サイズのプランター(長さ60cm程度)では、この1/3の125gぐらいが目安です。つまり「成分のg数÷含有率=製品のg数」で、含有率が半分になれば必要な製品の量は2倍になります。化成肥料1kgには1,000g×8%=80gの窒素・りん酸・加里が入っているので、375gの製品には窒素が30g含まれている計算です。成分表示の読み方と施肥基準の探し方は施肥基準の読み方にまとめています。
成分量の逆算は正確ですが、庭で毎回秤を使うのは手間です。そこで種の会社が家庭菜園向けに公表している「握り」の目安を、gとの対応表として置きます。サカタのタネのナスの栽培方法のページは、1平方メートル当たりの元肥として堆肥3〜4kg、化成肥料(N:P:K=8:8:8)3握り(約150g)、過リン酸石灰を軽く1握り(約30g)、さらに苦土石灰3握り(約150g)を挙げています。施肥量はすべて1平方メートル当たりと但し書きが付いています。
| 資材 | 公表されている量 | 1㎡当たりのg数 | 握り1回 | 成分換算 |
|---|---|---|---|---|
| 堆肥 | 3〜4kg | 3,000〜4,000g | ― | ― |
| 化成肥料 8-8-8 | 3握り(約150g) | 150g | 約50g | 窒素 150g×8%=12g |
| 過リン酸石灰 | 軽く1握り(約30g) | 30g | 約30g | りん酸 30g×17.5%=5.25g |
| 苦土石灰 | 3握り(約150g) | 150g | 約50g | ― |
この表から、握り1回の重さは資材によって違うことが読み取れます。化成肥料は3握りで約150g、割ると1握り約50gです。過リン酸石灰は軽く1握り約30gで、化成肥料の30÷50=0.6、つまり6割の重さしかありません。同じ手の大きさでも粒の嵩密度が違うためで、握数を資材の間で共通の単位として使うと量がずれます。過リン酸石灰のりん酸成分は、流通の中心である粒状品の可溶性りん酸17.5%で出して5.25g/㎡です。化成肥料だけがりん酸を持つのではなく、単肥で別に7〜8割ぶんが入っている計算になります。堆肥の量の出し方は堆肥・腐葉土必要量計算機で、㎡から袋数に直せます。
追肥も握りで書かれています。同じページは、定植後約3週間目に最初の追肥を行い、その後3週間おきに追肥すること、化成肥料を畝の肩部片側2m(4株分)に1握り(約50g)をばらまくこと、追肥は1回4株当たり化成肥料1握り(約50g)とすることを挙げています。50gを4株で割ると1株当たり12.5g、8-8-8の化成肥料なので窒素成分量は12.5g×8%=1.0gです。1株に窒素1gを3週間おきに足していく、というのが握り追肥の実質です。肩部にばらまいて土と混ぜるよう軽く耕すところまでが手順に書かれています。
握り目安と施肥基準は、桁は合うが全量は合わないという関係にあります。元肥の化成肥料150g/㎡が含む窒素は12g/㎡です。一方、先の福島県のトマトの基準は窒素の合計が30〜37kg/10a、1㎡あたり30〜37gです。作物も栽培形態も違う値なので直接の比較にはなりませんが、元肥だけで基準の全量を満たす設計にはなっていないという構造はどちらも同じで、12÷30で4割、残りは回数の多い追肥で足す形になっています。公的基準の側でも「第1回目の追肥は第3花房開花時に行い、以後少量ずつ、間隔を短く、回数を多く施用する(N成分で1kg/回)」と、少量を刻む指定がされています。この 1kg/回=1,000g/回 を、先の握り追肥で出した1株窒素1.0gで割ると1,000株ぶんの追肥です。「少量ずつ」でも家庭菜園の4株と基準対象の圃場では桁が違うため、目安をそのまま持ち込まない読み分けが必要になります。
成分表示には見落としやすい注意点があります。りん酸と加里は、これまでの慣例により酸化燐(P₂O₅)と酸化加里(K₂O)の%で表されています。したがって、実際のリン(P)やカリウム(K)に換算すると表示の8%より低くなります。窒素は窒素(N)の%なので、3つの数字は同じ土俵の数字ではありません。成分量で肥料を設計するときは、この違いを踏まえてください。
有機質肥料は元肥向きですが、成分の全量を作物がすぐに利用できるわけではなく、肥効もゆっくり現れます。そのため施肥量の計算は化成肥料より複雑になります。含有率が低いぶん、同じ成分量を狙うと製品の重量は大きく増えます。たとえば窒素10g/㎡を尿素(窒素46%)でまかなうなら約22g/㎡、硫酸アンモニウム(窒素21%)なら約48g/㎡で、製品の重量は2倍以上違います。重量で買う肥料では、この差がそのまま費用の差になります。
液体肥料は、水で薄めてすぐ効く形にした追肥用の肥料で、元肥には使いません。生長期に1週間〜10日に1回ほどの間隔で与え、冬の休眠期は控えます。薄め方が濃すぎると肥料焼けで根を傷めるため、迷ったときは規定の範囲内で薄めに調整してください。用途別の倍率と必要な原液の量は液肥の希釈計算機で出せます。
芝生と花壇は、元肥と追肥の考え方をそのまま当てはめられません。芝生は季節ごとに必要な量が変わり、春と秋に厚く、夏は控えめ、冬は不要という配分で、年間を通した回数も決まっています。花壇は植え付け時の元肥と、生育途中の追肥に分けて考えます。芝生の季節別の施肥量は芝生の施肥量計算機で、花壇に必要な株数は花壇の必要株数計算機で求められます。
肥料は成分量で設計するのが原則です。三要素のどれが足りていないのかを押さえ、元肥と追肥にどう配分するかを決め、成分量を含有率で割って製品の量に直す。この順番で考えれば、袋の表示を見てどれだけまけばよいかを自分で出せるようになります。効きすぎと不足のどちらも防げるのは、この一手間を省かなかったときだけです。